公演解説
今、世界はアルゼンチン・タンゴ・ダンスの一大ブームだ。イタリア、ドイツ、スペイン、USAとダンス教室の大流行で、アルゼンチンのプロ・ダンサーたちが教師としてかり出されるものだから、肝心の本国のタンゴ界はダンサー不足が問題になるほどだ。タンゴのダンス教室という点では世界に先駆けてきた日本でも、全国的にさらに大きな広がりを見せ始めている。日本人のプロのダンス教師の団体も出現、より質、レベルの高い内容の教室を目指す動きも見えてきた。教室に加え、六本木や渋谷などで若者たちが主宰するタンゴ・ダンス・パーティーも数多く出現するようになって、ブームはいよいよ本格的な様相を呈し始めた。
 グローリア&エドゥアルドは、アルゼンチン・タンゴ・ダンスの世界の頂点に立つカップルだ。「タンゴ・アルヘンティーノ」「フォーエバー・タンゴ」など日本にやってきて評判の高かったタンゴ・ショーの振付や基本アイデアはほとんどエドゥアルドの手によるものだったし、世界中でタンゴを教え始めたのもこのカップルだった。1985年、フランスとアルゼンチン合作の映画『タンゴ〜ガルデルの亡命』(ソラーナス監督作品)に出演、スピード溢れる見事なステップで世界中にタンゴ・ダンスの魅力を伝えもした。USAのシカゴには、グローリア&エドゥアルドの名を冠したダンス学校まで出現、2000年から毎年開催されるロンドンのタンゴ・フェスティバルや、99年マイアミ、02年のスイス・チューリッヒでのタンゴ・フェスティバルには最高の特別ゲストとして招かれている。
 今回、グローリア&エドゥアルドが日本に運んでくる「タンゴの魂(アルマ・デ・タンゴ)」は、92年の「タンゴ!タンゴ!」、94年の「コラソン・デ・タンゴ」に続く、グローリア&エドゥアルド・タンゴ舞踊団としての3作目に当たる作品だ。このショーには世界中に散らばっている彼らのトップ・クラスの門下生たちが選ばれて参加することになった。あの「フォーエバー・タンゴ」の冒頭、男性に勢いよく放り出される女性ダンサーが、床を滑るようにして大きなバンドネオンにたどり着くショッキングなシーンを覚えておられる方も多いと思うが、実はあれはグローリア&エドゥアルド・タンゴ舞踊団による名振付で、92年にも94年にも彼らのステージですでに披露され絶賛されたものだった。もちろんあの女性ダンサー、ミリアムはエドゥアルドの愛弟子で、今回はウーゴという男性ダンサーと新カップルを組んで参加する。他にイタリアを始めヨーロッパを中心に教授活動をしているジェラルディン&ハビエル、アクロバティックなタンゴだけでなく、正当派のタンゴのダンスを披露するロレダーナ&マリアーノ、マリエラ&ヘスースも現在のブエノスアイレスで評判のダンサーたち。このおそらく世界最高峰の実力派カップルに、歌も踊りも円熟の域に達した男女シンガー、ダニエル・オリベーラとサンドラ・カバル。楽団は、あらゆるスタイルのタンゴをこなすベテランのピアニスト、カルロス・マルサンがリーダーをつとめる。第1バンドネオンにアレハンドロ・プレビニャーノ、第2バンドネオンにティト・ファリアス、バイオリンはブリンガス父子という、こちらも最強スタッフだし、今回はタンゴ誕生初期のパートのためにネストル・カラスコというクラリネット奏者も参加する。
 ただ、漫然と個々の振付を楽しむだけのタンゴ・ショーが多い中、彼らの「タンゴの魂」はタンゴ誕生期からピアソラにいたるまでの多彩なタンゴの時代を、大まかに4つのシーンに分けて表現するという、タンゴ・ダンス・ショーの決定版とでもいうべきものだ。ここから日本の新たなダンス・ブームが生まれてゆく、そんな期待を存分に持たせてくれるクオリティ最高のショーである。